ピクシブさんに「社会人交換留学」してきました
会社の公式な取り組みとして「社会人交換留学」という面白実績を作りましたのでご報告です。
4/20〜4/24 の一週間、ピクシブ社で仕事してきました。
初出社
— Takafumi ONAKA (@onk) April 20, 2015
色々書いてると長文になっちゃったんですが、お付き合いください。
公式発表はこの辺り。
- 株式会社ドリコムとエンジニア職社員の「社会人交換留学」を実施しました - ピクシブ株式会社 採用サイト
- 社会人の交換留学!?ピクシブの現役エンジニアがドリコムに1週間のインターンシップを実施!! | 株式会社ドリコム
目次
- 何を得ようと考えていたか
- どんな準備をしたのか
- 受け入れが終わって
- 行ってる最中の様子
- 総括
何を得ようと考えていたか
主目的は
異文化に密に触れることで自社のそれと比較し、安心感や危機感、技術的審美眼を手に入れること
です。「密に触れること」「比較すること」がそれぞれポイント。
ピクシブさんとは 一緒に勉強会を開催したり していたり、@bash0C7 さん や @norio さん と 2010 年からよく勉強会で顔を合わせていたりしていたので、どれぐらい自社と違うのかのイメージはありました。
想定していた異文化の例としては
- 言語選択の自由
- ドリコムは Ruby/Rails ほぼ一択
- ピクシブは pixiv(PHP)、BOOTH(ruby)、マンガ(scala)、広告配信(go) 等々
- デプロイ環境
- ドリコムは1日数回程度。リリース後10分以上自席でログに張り付き
- ピクシブは1日20回、所要時間8秒。 (参考)
- コードベース
- ドリコムは1アプリ数ヶ月〜数年のものが 15 ライン
- ピクシブは10年育てたコードベースがある
- 提供しているアプリケーションの差
- ドリコムは (ネイティブ) ソーシャルゲーム
- ピクシブは UGC の Web アプリケーション
- コミュニケーションツール
- ドリコムは ChatWork, ...
- ピクシブは idobata, slack, esa, ...
あと歴史的経緯で差が出てくるんだろうなぁと想定していたものは
- 技術ポートフォリオ
- 座組み
- インフラ構成
- 開発環境
- コードレビューの温度感、新人の発言頻度・発言の自由度への影響
- タスク管理ツール
- ミーティング頻度や内容
- ふりかえり手法
といった辺りです。
勉強会や飲み会では窺い知れないものを得たい。「留学」という形で、1週間がっつり常駐しないと見えない文化の差というものを明文化できれば、という思いがありました。
例えば
- chatops で bot がチームの雰囲気にどのような影響を与えているか
- ユーザサポートをどれぐらい真摯にやっているのか
- 普段の資料の粒度
- 新機能をユーザに届けるまでにどんな職種の人がどんな関わり方をしているのか
等です。
副目的として、同業他社との繋がり強化やレピュテーションの向上、社員の成長等も期待していました。
どんな準備をしたのか
ぶっちゃけ飲み会のネタだったのですが、年があけた 1/4 に
という DM が飛んできまして。
慌てて社内調整に乗り出しました。 以下を順に行いました。
- 1月
- 根回し
- ポエム作成
- 2月
- 役員会に提出する資料作成
- 法務確認
- 3月
- スケジュール調整
- 情報統制周りの準備
根回し
まず口頭で「交換留学」という取り組みをやろうと思うんだけど、と頭出し。主に各部署の部長陣と社長に対して。
エンジニア的には「面白いね」で通るので、特に人事部長に「何が面白いのか」「どんな未来がありそうか」を説きました。
転職リスクは少なからず増えますからね。。リスク以上のメリットがあることを理解してもらう。
ポエム作成
「何を得たいのか」を文章に起こして、手に入れられるものを具体化します。
- 他社が行っている社会人インターンの事例を集めたり
- ピクシブで得られるものが何かをもう少し調査してみたり
- 社内で技術的優位性を持つ技術が何があり、どれを社外秘にするかの定義をし直したり
役員会に提出する資料作成
- 何を得たいのか
- 短期的なゴール
- 長期的なゴール
- 他の手段と何が違うのか
- 払うコスト
- 課題
- スケジュール感
を書きました。資料は以下です。(実際に出した提案資料から、個人名等を削ってあります)
ドリコムでは面白いこと、熱気・活気に溢れている内容だと社長の共感を得やすいので、資料中では「面白さ」を前面に押し出しています。
法務確認
そもそもやっていいのか、派遣法に抵触しないか、NDA はどのようなものを結べば良いか。
最終的にはピクシブさんから普段使っている NDA 雛形をいただき、「見えてしまった後に口頭で禁止したものも機密扱いとする」という条項を盛り込みました。
これはオフィスに入場してチームに入って仕事をする以上、どうしてもホワイトボードに売上が書いてあったりとか、全社チャットにインサイダー情報が流れたりとかがあるので、その場で「今のも口外禁止ね」って言える必要があります。
人事確認
ドリコムを退職してピクシブに入社する、またはその逆が今後やりづらくならないように人事や役員に確認を取りました。
この取り組みを行ったことで、社員の今後の選択肢が狭まるのを防ぐためです。
- 内情が見え、魅力的に感じたので行きたくなる
- 許容する。防ぎようがない
- 交換留学を行おうが行わまいが、いつか転職していただろう
- 逆に先方から転職してきてくれる可能性もある
- 揉めるのが嫌で転職時の選択肢からピクシブを除外する
- これを防ぎたい
スケジュール調整
それぞれの会社で割と中堅クラスのエンジニアを出すことになるので、お互いに出られる日程を合わせるのが大変でした。
最初は本当に同時に交換しよう (僕がピクシブに出社している間に edvakf さんがドリコムに出社する) と考えていたんですが、最終的に1週間ずつお互いがホストする形に。結果的にはこれで良かったです。
情報統制周り
- 社内のサーバ一覧のどこまで見せられるか
- アカウントの発行はどうするか
- 売上等のセンシティブな情報が見えないように
- 本番サーバでやらかさないように
- 受託案件のソースコードはどこまで見せられるか
- 入場時のネックストラップの色とか
- セキュリティカードどうするとか
せっかく強い人に来てもらうので「本番サーバに入ってログや負荷状況も見れた方が動きやすいだろう」という思考をベースに、
- 大抵のことができる
- ただし実行コマンドのログを取る
- すぐ隣に僕が付いていて監督する
という環境を作りました。
受け入れが終わって (4/6〜4/10)
だいたい毎日ずっと隣についていて、何の作業をしているのかを把握しながら自分の仕事をしていました。
やってもらったこと
- pploy の導入
- 社内に立っている gistub に投稿する gem の作成
- デザイナーさんを助ける仕組みづくり
- 社内の人間だったら「chrome extensionにしよう!」って発想は出なかったと思う
- デザイナーさんからの評判が異常に良く、他職種にまで影響を広げられたのが良かった
- 毎日2人ずつぐらい社員にインタビュー
- 各部署の人に1時間ずつ話を聞いて回った
- 「なぜドリコムに入ったのか」とか「その部署を立ち上げたときに何を考えていたのか」とか。
- 僕も知らない話が多く出てきてものすごく役得だった
僕はこの1週間のうち、60% ぐらいの工数を割いたイメージ。
行ってる最中の様子 (4/20〜4/24)
僕は「普通に一員としてプロジェクトに参加したい」という要望を出していたので、そうアサインしてもらいました。毎日普通に出勤して issue 潰す感じ?
- 10:00 朝会
- 10:15 業務+社内インタビュー(1h)
- 13:00 昼飯
- 14:00 業務+社内インタビュー(1h)
- 19:00 一旦終了
社内システム上の情報が面白すぎて読みふけってしまい、結局終電まで居たりはしたんですが(ご迷惑をおかけしました)
行く前は「ドリコムの開発標準を見せつけに行くぞ!」と意気込んでたんですが、ピクシブさんのレベル高くて大変でした。。20人関わってるリポジトリで1年以上運用していてこんなに綺麗に保てるものなんですね。
チーム内も、ディレクターさんが「気になった PR だったので手元に持ってきて動かしてみました」って言ってくるのはヤバかった。
最終的に「これが違いだ」と思ったのは以下の 3 点でした。
- デザイナーさんが中心となりサービス設計を行っている
- 「オタカルチャー×クリエイター」というドメインの明確な web の自社サービスを展開
- 大事にしているのは「メリハリ」と「スピード」
デザイナー中心のサービス設計
これは片桐社長がデザイナーだったのが影響大きそう。
vol.19 片桐 孝憲 (ピクシブ株式会社 代表取締役社長) | みんなの仕事場
大学生のときにデザインや映像に興味を持って、自分でもwebや映像の制作を手がけるようになりました。
イラストSNS、ピクシブの「以心伝心」少人数メソッド(2/3) - @IT
うちでは、何か機能を追加したいと思ったら、まずUIに落とし込みます。それでうまくいきそうなら実装してみるというやり方です。とにかく最初にデザインをして形にしたうえで、それを動かしてみる。
といった歴史的経緯があり、今でもデザイナーの役割が大きい (チームもある) と伺った。
サービスをデザインすることにチーム全員がコミットするようになっていく過程を知れたのはものすごく糧となった。
メリハリとスピード
「メリハリ」は手に入れたいものなので、少し考えたい。「スピード」を無くした要因は完全に僕なので反省するところしきりだった。
「どっちが正しいと思う?」という問いかけは「正しくないとリリースしてはいけない」となり -100 -> -50 への変化スピードを 0 にしてしまうのでやってはいけない問い方なのかもしれない。
— Takafumi ONAKA (@onk) April 26, 2015
総括
得たいと思っていたものは得ることができたか
実施前の想像以上に得られた。すごく良かったです。
以下詳しく述べます。
お互いに「当たり前」と思っていた社内の良いところを再認識
成り立ちが違うとこう変わるのか、というのを歴史とともに学べたのがものすごく面白かったです。
単純に自社の方が勝ってる!と思えるものも少なく、「なるほどそうきたかー!」って感じなものが多かった。
ドリコムにもともと存在していて、今回の取り組みで面白さを再認識できたのは
- ほぼ半年ごとに組織が (割とガラッと) 変わること
- スペシャリスト <-> マネージャの転身事例が割とある
- 評価制度
- 組織として動くことがミッションになっている人間の多さ
かな。何でもやる人が増える構造だったと再認識した。
転職せずに他社の業務を体験できる機会
インフラ周りは一度構築すると中々変えづらいこともあり、一番会社の特徴が出ますね。
今回は Rails エンジニアとして Rails プロジェクトに入ったので、技術スタック自体はほとんど同じでした。使っている gem もだいたい似ていた。
プロジェクトの中に1週間入り、事業を運営している姿を間近で見て
- クリエイター向けのサービスであることの楽しさ
- ユーザの顔が見えやすいサービス
- ユーザ投稿のパトロール業とか
- 倉庫や工場とのやりとりとか
- 新しい企画が出てきたときのワクワク感とか
- 新機能や不具合修正をユーザに届けるまでの速度とか
を体験できた。
例えばそうですねー。ソーシャルゲームだといわゆる「詫び石」という文化があるのでバグを出すたびに数千万円ずつ配ってるような感じになるんですが、そういうユーザ文化が無い環境での運営手法はウチが別事業を立ち上げるときに参考になるなぁ、とか。
体感事例の幅を広げ、行動/選択時の引き出しを増やす
プロジェクトの進め方は、自社内での留学とは違った経験になったと思います。事業内容やリリース頻度、みんなの働き方 (ワークライフバランス?) の差が印象的だった。
- プロジェクト内で1週間過ごした
- 企画が立ったり、事業を運営している状況を見た
- いろんな事例を知った
- サービス/事業の運営の歴史
- どういう行動をする人が評価されるのか
- 新規プロジェクトを開始するときに何を意識するのか
- 開発職に何を求めているのか
- 事業責任者に何を求めているのか
- 歴史的経緯によるツラみ
文化的な色々は、想像していた通りにメリットデメリットがあった。どちらを選ぶのかは社員の嗜好や理想とする文化の差が出てくるのかなぁ。こういうのもアリだなぁ、という感想。
自社が停滞していたら撹拌する
帰ってからすぐに広めたのは
- Pull Request の description がめっちゃ丁寧だったこと
- 事業や会社に対する想い=熱量をさらに高めるための問いかけ
- 何か思いついたときのデザイナーさんの巻き込み方
です。
僕自身は
- ピクシブ社内での esa 的な場所を上手に作る
- よりスピードを重視するコミュニケーションに寄せるように
- 正しさを求めすぎないように
- マイクロマネジメントに寄り過ぎているので、もう少しセルフで判断できるように働きかけ方を変える
という動きを始めました。
新しいロールモデルの提示
edvakf さんからウチの新卒3年目氏たちに対して「数年後に戦える web アプリケーションエンジニアとは」という訓戒を垂れていただいたのが面白かったです。社内に居ないタイプの中堅エンジニアの姿を見せてあげられたかな。
これからウェブ業界のエンジニアになろうとする人へ - pixiv engineering blog
また、「デザイナー主体のプロジェクト運営」という事例を聞くことができ、社内にそのノウハウを展開したのは今後に効いてくると良いなぁと思う。
最後に
社員さんとのコミュニケーションがやはり一番面白いコンテンツでした。
何日か一緒に過ごすと業務内容や部署の役割、チームの課題等が見えてくるので、自分もピクシブの一員としてこの先どう改善していこうかって会話ができるようになる。
また、引き出しが一気に増えるので自社に戻ってどう動くべきかという見通しも立ちました。
ピクシブの皆様、貴重な体験をさせていただきありがとうございました。
とても良い経験だったので、この「社会人交換留学」という取り組みをもっと広めていきたいですね!